「採用はできた。でも続かない」。外国人スタッフの受け入れを始めた宿から、いちばんよく聞く悩みです。宿泊業の離職率はもともと産業のなかで最高水準。ただ、外国人に限ると話は単純ではありません。彼ら・彼女らの多くは、むしろ「この宿で長く働きたい」と考えているからです。この記事では、まず『外国人だけの離職率』を示す公的統計が存在しないという限界を正直に押さえたうえで、辞める要因と、打てる手を、官公庁の一次情報から整理します。

「採用はできた。でも続かない」。外国人スタッフの受け入れを始めた宿から、いちばんよく聞く悩みがこれです。手間をかけて来てもらったのに、半年や一年で去ってしまう。そのたびに採用と教育をやり直すのは、人手の足りない宿にとって小さくない痛手です。
ただ、ここで立ち止まって考えたいことがあります。宿泊業の離職率は、もともと産業のなかでも最高水準です。つまり「辞めやすい」のは外国人に限った話ではありません。そして外国人に目を向けると、公的な調査はむしろ逆の姿を映します。彼ら・彼女らの多くは、「この宿で長く働きたい」と考えているのです。辞める要因を正しく捉えられれば、打てる手はある——この記事は、その見立てから始めます。
この記事のポイント
- 「宿泊業で働く外国人」だけの離職率を直接示す公的統計はなく、合算値で参考にしか読めません。
- 離職の主な要因は、賃金・労働条件・コミュニケーション・キャリアの見えにくさに整理できます。
- 打ち手は、段階別のオンボーディング+やさしい日本語+キャリアの可視化+待遇・労働条件の改善です。
- 育成就労の転籍解禁(令和9年4月施行予定)は、定着促進にも人材流出にもなりうる「両刃」です。
- 前提として、外国人スタッフはむしろ定着志向が強い。だからこそ要因に手を打つ価値があります。
データで見る離職の実態──まず「わからないこと」を正直に
最初に、いちばん大事なことを正直に書きます。「宿泊業で働く外国人」の離職率や平均在職期間を直接示す公的統計は、確認できません。これは調べ方の問題ではなく、統計のつくり自体に理由があります。
厚生労働省「雇用動向調査」は産業別の離職率を公表していますが、宿泊業は「宿泊業,飲食サービス業」という一つの大括りに含まれ、宿泊業だけを取り出せません。しかも同調査は日本人・外国人の別を集計していません。つまり、外国人だけを取り出した離職率は、公的統計には存在しないのです。宿泊業単独の平均勤続年数も同様に確認できませんでした。ここを曖昧にしたまま「外国人は離職率が高い(低い)」と語ると、根拠のない断定になってしまいます。
そのうえで、参考値として読める数字を挙げます。「宿泊業,飲食サービス業」(全労働者・合算)の離職率は、令和6年(2024年)で一般労働者18.1%・パートタイム労働者29.9%。令和5年(2023年)は26.6%で、これは全産業計(15.4%)の約1.7倍にあたり、産業別で2位の高さでした。
学卒者の早期離職を見ると、宿泊業,飲食サービス業の高さはより鮮明です。就職後3年以内の離職率は、令和3年3月卒で高卒65.1%・大卒56.6%と産業別で最高。続く令和4年3月卒も、下の表のとおり全産業計を大きく上回り、やはり産業別最高でした。とりわけ離職は1年目に集中します(令和4年3月卒・大卒は1年目12.1%・2年目11.9%・3年目9.9%)。受け入れ直後の数か月が、定着の最初の関門だということです。
| 就職後3年以内離職率(令和4年3月卒) | 高卒 | 大卒 |
|---|---|---|
| 宿泊業,飲食サービス業 | 64.7% | 55.4% |
| 全産業計 | 37.9% | 33.8% |
(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」。雇用保険加入者ベースの推計)
この数字の読み方
ここで挙げた離職率は、いずれも「宿泊業,飲食サービス業」の合算であり、宿泊業だけの値ではありません。また日本人・外国人の別もありません。つまり「外国人スタッフの離職率」そのものではなく、宿泊業界全体の離職の起きやすさを示す参考値として読んでください。
なぜ辞めるのか──離職の要因を分解する
外国人スタッフ自身に近い形で要因を捉えた調査としては、観光庁が宿泊施設の外国人従業員に行った実態調査があります(回答は98件、N=98の小規模サンプル)。働くうえで感じる課題は、「給料が少ない」が42.9%で突出し、第2位の「日本語学習の支援」(19.4%)と約24ポイントの差がつきました。第3位は「シフトのばらつき」(15.3%)です。
| 外国人従業員が感じる課題(N=98・複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 給料が少ない | 42.9% |
| 日本語学習の支援 | 19.4% |
| シフトのばらつき | 15.3% |
(観光庁「宿泊施設における外国人材の受入れ状況に関する実態調査事業」報告書。N=98の小規模サンプルである点に留意)
この「給料が少ない」という声の背景には、宿泊業の構造的な労働条件があります。令和6年(2024年)賃金構造基本統計調査では、「宿泊業,飲食サービス業」の所定内給与は26.95万円で、これは産業のなかで最も低い水準です。年次有給休暇の取得率も49.1%(令和5年・就労条件総合調査)と、全産業で唯一50%を下回りました。24時間・年中無休の現場、中抜けシフト、地方立地、そして「現場で完結して見えるキャリア」——こうした条件が、賃金への不満と重なって離職の土壌になります。なお、これらも宿泊業,飲食サービス業の合算値です。
宿泊業ならではの事情も、これに輪をかけます。観光庁の令和6年度・宿泊業の人材確保調査によると、人手不足感は地方部ほど強く、「特に人手不足を感じていない」と答えた施設は三大都市圏の10.3%に対し、地方部ではわずか4.6%でした。加えて、朝と夜に勤務が分かれる「中抜け」シフトは若い世代の働き方になじみにくく、キャリアパスも現場のなかで完結して見えがちです。日本と海外、双方の休暇シーズンに観光客が訪れるため「一年を通して繁忙期」になりやすく、休みの取りづらさにもつながります。賃金や労働時間に加えて、こうした宿泊業固有の事情が、外国人・日本人を問わず定着を難しくしているわけです。
在留資格による違いも見落とせません。技能実習は原則として転籍(転職)ができないため、不満が職場の変更ではなく「失踪」に向かいやすい構造があります。法務省が2017年の失踪者の聴取票を集計した調査では、失踪動機(複数回答)のうち「低賃金」が67.2%で最多でした。失踪そのものの規模も小さくなく、令和5年(2023年)には過去最多の9,753人に達しています。在留資格による差は鮮明で、令和3年度の比較では、失踪が技能実習で7,167人だったのに対し、転職の認められている特定技能ではわずか76人でした。不満が「失踪」という最悪の形で噴き出しやすいのは、転籍できないという構造そのものに原因がある——この差は、そう読むのが自然です。
ただし、ここは強い注意が必要です。失踪は、通常の離職とは別物です。これらは摘発された人の聴取票や、行方不明を理由とする届出を集計したもので、宿泊業のスタッフ一般を代表する数字ではありません。失踪者数も、届出後に所在が把握される人を含むなど、全員がそのまま所在不明というわけではありません。あくまで「逃げ場のなさが極端な形で表れた事例」として読むべきものです。一方、特定技能は同一分野内であれば転職が可能なため、不満は転職という通常の形で表れます。
こうした「賃金・労働条件への不満」は、別の窓口の集計からも裏づけられます。外国人技能実習機構(OTIT)に寄せられた母国語相談は令和5年度で14,307件にのぼり、内容別では「賃金・時間外労働等の労働条件に関すること」が最多の2,716件、次いで「実習先変更に関すること」が2,433件でした。観光庁調査(N=98)の「給料が少ない」、失踪動機の「低賃金」、そしてこの母国語相談の「労働条件」——出自の異なる三つの調査で、上位に並ぶものは見事に重なります。離職の引き金として最も大きいのは、やはり賃金と労働条件だと考えられます。なお、OTITの相談は技能実習制度全体のもので、宿泊業単独の数字ではありません。
受け入れる側の宿にも、固有の困りごとがあります。観光庁が宿泊事業者(雇用経験ありN=249)に尋ねた調査では、「在留資格の許可申請への対応が困難」と「言語が通じにくく業務に支障」がともに32.5%で同率1位、「長期での就労意思が低い(転職・退職リスク)」が31.7%で続きました。スタッフ側の「辞めたくなる理由」と、事業者側の「定着させにくい理由」は、コインの裏表になっています。
| 事業者が感じる課題(N=249・複数回答) | 割合 |
|---|---|
| 在留資格の許可申請への対応が困難 | 32.5% |
| 言語が通じにくく業務に支障 | 32.5% |
| 長期での就労意思が低い | 31.7% |
(観光庁・同報告書。N=249=回収366件中の雇用経験あり)
定着の打ち手──公的ガイドとエビデンスから
では、何をすれば続いてもらえるのか。ここは推測ではなく、公的なガイドと実証データのある施策に絞って整理します。
土台になるのが、厚生労働省「地域外国人材受入れ・定着モデル事業」がまとめた事業者向けマニュアルです。要点は、定着を「募集」「受入れ」「就労中」という段階に分けて準備すること。それぞれの段階で、異文化理解研修、内定者との定期面談の資料、受入れ準備チェックシートといった具体的な道具立てが示されています。このモデル事業では、受入れ6か月後の定着率は99.2%に達しました。

ただし99.2%という数字も、定義注記を添えて読む必要があります。これは宿泊業単独ではなく介護や飲食料品製造などを含むモデル事業の値で、母集団も小さいものです。退職した3名も転職ではなく帰国によるものでした。「同じ条件なら宿でも必ず99.2%」と読むのではなく、「段階を踏んだ準備には効果がある」という方向性を示す数字として受け取るのが妥当です。
コミュニケーションの工夫も、失踪防止策として公的に紹介されています。入管庁が示す「こうかんノート」は、技能実習生と受入れ側が交互に日記を書き合う取り組みで、日本語能力の向上と信頼関係の醸成に役立ったと報告されています。入管庁は離職・失踪の要因として「来日前の想定と実態のミスマッチ」を挙げ、入国前の丁寧なすり合わせを促しています。
宿泊業に即した提言は、観光庁の調査がまとめています。やさしい日本語のマニュアル整備、日本語教育の支援、住環境の整備、キャリアパスや配属の仕組みづくり、長時間・中抜け勤務の改善、学び直しの支援——いずれも要因の裏返しです。なかでも示唆的なのは、観光庁の人材確保調査が整理した「研修を実施していない施設ほど、離職率が高い傾向にある」という指摘です。受け入れて現場に放り込むのではなく、入口の研修と継続的な面談に手間をかけることが、結局は定着への近道だということです。
制度の追い風と注意──育成就労の転籍解禁
定着を考えるうえで、いま避けて通れないのが制度の切り替わりです。技能実習に代わる育成就労制度が、令和9年(2027年)4月1日に施行される予定です。最大の変更点は、これまで原則できなかった「本人の意向による転籍」を、条件付きで認めること。宿泊分野では、転籍が可能になるまでの制限期間が1年に設定されています(技能習得に時間を要する介護・建設などは2年)。
これは定着にとって追い風にも逆風にもなりえます。入管庁は、暴力やハラスメントから逃げられない構造(失踪の温床)を是正する人権保護・定着促進の措置と位置づけます。一方で、受け入れ側から見れば、育てた人材が他社へ移る流出リスクでもあります。制度設計上は、転籍制限期間・優良な実施者であることの要件・転籍先における本人意向転籍者の割合制限(原則3分の1以内、指定区域から区域外へは6分の1以内)・昇給義務などを組み合わせた、いわば「管理された流動化」です。完全な移動の自由ではなく、とくに地方から都市部への流出を抑える歯止めが置かれています。受け入れ側に求められるのは、流出を恐れて身構えることより、待遇改善とキャリアパスの可視化で「選ばれ続ける宿」になる備えです。
施行前の制度です
育成就労は施行前のため、主務省令・分野別運用方針・運用要領は随時更新されています。転籍制限期間や割合制限などの細部は今後変更されうるため、最新の内容は出入国在留管理庁の公表でそのつどご確認ください。
なお、すでに動いている特定技能1号は、同一分野内での転職が可能で、在留は通算で上限5年です(2号試験の不合格者に最長1年の特例在留を認める措置がありますが、宿泊分野での運用詳細は要確認)。もっとも、宿泊分野の実数はまだ小さく、特定技能1号「宿泊」は令和7年12月末で1,968人、全分野に占める構成比は0.5%にとどまります。より熟練度の高い2号にいたっては、まだ30人です。ただし伸びは速く、1号は直近の半年で55.6%増と、全分野のなかでも高い伸び率を示しました。受入れ見込み(上限)は令和6年4月からの5年間で宿泊2万3,000人と大きく、宿泊分野の人手不足は令和10年度に約7万4,000人と見込まれています。枠は大きいが、実数はこれから——という段階です。これらは在留ベースの速報値で、確定値は後日更新される点に留意してください。制度はそろいつつあり、これから人の数が動く局面にあります。
見落とされがちな前提──外国人は実は「定着したい」
ここまで要因と打ち手を見てきましたが、最後に、議論の出発点になる事実を置きます。先ほどの観光庁調査(N=98)は、外国人スタッフの意外なほど強い定着志向を映しています。
回答者の79.6%が「転職をしたことがない(同じホテル・旅館で働き続けている)」と答え、将来について「いまの勤務先で昇格・昇給したい」を挙げた人が50.0%で最多でした。日本を選んだ理由は「日本の文化や暮らしを知りたかった」が54.1%、宿泊業を選んだ理由は「日本のおもてなしを勉強したかった」が57.1%。つまり、お金だけでなく、学びや文化への動機を持って来ている人が多いのです(いずれもN=98の小規模サンプルである点には留意してください)。
ここから言えることはシンプルです。外国人スタッフは、もともと「辞めたい」のではなく「続けたい」と考えている人が多数派だということ。定着の素地はすでにある。だからこそ、賃金・キャリア・コミュニケーションという要因のほうに手を打てば、定着は十分に実現できます。離職を「外国人だから仕方ない」と片づけるのではなく、自施設の受け入れ方を見直すこと——そこに伸びしろがあります。
まとめ
宿泊業の離職率は産業でも最高水準ですが、それは外国人に限った特徴ではありません。「外国人だけの離職率」を示す公的統計がない以上、断定は避けつつ、要因を一つずつ捉えるのが誠実な向き合い方です。要因は賃金・労働条件・コミュニケーション・キャリアの見えにくさに整理でき、打ち手はそのまま裏返しになります。そして前提として、外国人スタッフはむしろ定着したいと考えている。あとは、受け入れる側がそれに応える準備をできるかどうかです。
定着に向けたチェックポイント
- 受け入れ直後(とくに最初の数か月)のオンボーディング研修と面談が用意できているか。
- 指示や相談を「やさしい日本語」でやり取りできる体制があるか。
- 困りごとを早めに拾う相談窓口・定期面談が機能しているか。
- 昇格・昇給を含むキャリアパスが、本人から見えるかたちで示せているか。
- 賃金・労働時間・中抜けシフトなど、待遇と労働条件に改善の余地はないか。
- 育成就労(令和9年予定)の転籍解禁を、流出対策と魅力づくりの両面で織り込めているか。
参考:本記事の数値は、本文および記事末の出典に基づきます。制度・統計は改定されるため、必ず各出典の最新情報をご確認ください。とくに「宿泊業,飲食サービス業」の合算値は宿泊業単独の数字ではないこと、観光庁調査はN=98・N=249の小規模サンプルであること、失踪は通常の離職とは別概念であること、育成就労は施行前で省令・運用が更新中であることに留意してください。
出典
本記事の情報は以下に基づきます。制度・統計は改定されるため、必ず各出典の最新情報をご確認ください。
- 時点:2025年8月公表(2024年実績・確定値)
- 時点:2023年実績
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」
時点:2024年10月公表- 時点:令和6年(2024年)調査
厚生労働省「事業者向け受入れ・定着マニュアル(地域外国人材受入れ・定着モデル事業)」
時点:令和5年3月報告書外国人技能実習機構「令和5年度外国人技能実習機構業務統計 概要」
時点:2024年10月公表(令和5年度)出入国在留管理庁「技能実習生の失踪防止対策について(こうかんノート 等)」
時点:随時更新- 時点:随時更新
日本経済新聞「技能実習生の失踪動機『低賃金』67% 法務省調査」
時点:2018年11月17日(法務省2017年聴取票)- 時点:随時更新(施行前)
出入国在留管理庁「育成就労制度の概要(令和7年12月改訂)」
時点:令和7年12月改訂出入国在留管理庁「育成就労制度における本人意向による転籍の制限(案)」
時点:有識者会議資料- 時点:随時更新
観光庁「宿泊施設における外国人材の受入れ状況に関する実態調査事業(報告書)」
時点:2025年3月21日公表(外国人従業員N=98/事業者N=249)観光庁「令和6年度宿泊業の人材確保・育成の状況に関する実態調査事業(報告書)」
時点:2025年3月21日公表- 時点:随時更新
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