宿で外国人を雇おうとすると、最初に名前が挙がる在留資格が「特定技能」です。けれど、その制度が宿泊の現場でどう組み立てられているのか——どんな仕事ができて、何が要件で、受け入れたあとに何の義務が生じるのか——を一枚で説明できる人は、意外と多くありません。宿泊分野は受入れの進む分野のなかでも人数が最も小さいクラスで、情報がまとまりにくいからです。この記事では、宿泊分野の特定技能の建付けを、要件・在留・協議会・受入れ枠まで、官公庁の一次情報から順に整理します。

宿で外国人を雇おうとすると、まず候補に挙がる在留資格が「特定技能」です。ただ、宿泊分野で実際に働く特定技能1号は、令和7年(2025年)12月末の速報値で1,968人。受入れの進む16分野のなかでは最少クラスで、特定技能1号全体(382,341人)に占める割合は、わずか0.5%にすぎません。
それでも、この制度を押さえる意味は小さくありません。1年前(令和6年12月末)の671人からは急増しており、令和8年(2026年)1月には宿泊分野の受入れ枠そのものも更新されました。制度がいままさに動いているこの時期に、「宿泊分野の特定技能はどう組み立てられているのか」を一枚に整理しておきます。
この記事のポイント
- 宿泊分野の特定技能1号は1,968人(令和7年12月末・速報値)。16分野で最少クラス・全1号の0.5%ですが、前年の671人から急増しています。
- 従事できるのはフロント・企画/広報・接客・レストランサービスの4業務。雇用は直接雇用のみで、派遣による受入れはできません。
- 受け入れには宿泊分野の評価試験+日本語(JLPT N4相当以上)が必要。施設側は旅館・ホテル営業の許可が要り、簡易宿所・下宿は対象外です。
- 宿泊分野特定技能協議会への加入は、在留申請の「前」に済ませておくのが事実上の必須です。
- 受入れ枠は最新で宿泊全体20,000人(特定技能1号14,800人+育成就労5,200人/令和8年1月23日閣議決定)。義務的支援10項目の詳細は別記事で扱います。

特定技能とは──1号と2号、宿泊分野の位置
特定技能は、平成30年(2018年)の改正入管法で創設され、平成31年(2019年)4月1日に施行された在留資格です。生産性向上や国内人材の確保に取り組んでもなお人手が足りない分野で、即戦力となる外国人を受け入れる——という考え方で設計されています。区分は「1号」と「2号」の二つです。
| 項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
|---|---|---|
| 在留期間 | 通算で上限5年 | 更新の上限なし(事実上無期限) |
| 求められる技能 | 相当程度の知識・経験 | 熟練した技能 |
| 家族の帯同 | 原則不可 | 要件を満たせば可 |
| 受入れ側の支援 | 義務(支援計画の作成・実施) | 対象外 |
(出入国在留管理庁「特定技能制度」より作成)
対象分野は、制度開始時の12分野から令和6年(2024年)3月29日の閣議決定で16分野に広がり、さらに令和8年(2026年)1月23日の閣議決定でリネンサプライ・物流倉庫・資源循環の3分野が加わって、制度上は19分野になりました。ただし新しい3分野は試験や受入れ要件の整備が途上で、実際に受入れが進んでいるのは16分野です。宿泊はこの16分野の一つにあたります。
2号については、令和5年(2023年)6月9日の閣議決定(同年8月31日に省令・告示が施行)で対象が大きく広がり、宿泊もこのとき2号の対象分野に加わりました。なお、同じ「外国人材の受入れ」でも、技能実習は技能移転による国際貢献が、特定技能は人手不足への対応が目的で、ねらいが異なります。技能実習を引き継ぐ新制度「育成就労」も令和9年(2027年)4月1日に施行が予定されており、制度は過渡期にあります。
宿泊分野で「できる仕事・できない仕事」
宿泊分野の特定技能1号が従事できるのは、「宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務」と定められています。具体的には次の4業務です。
- フロント:チェックイン・チェックアウト、周辺観光地の案内、ツアーの手配など
- 企画・広報:キャンペーンや特別プランの立案、館内チラシの作成、HP・SNSでの発信など
- 接客:館内の案内、宿泊客からの問い合わせ対応など
- レストランサービス:注文応対・配膳・片付け、料理の下ごしらえや盛り付けなど
これら4業務に幅広く従事するのが原則で、館内販売や備品の点検・交換といった「関連業務」には付随的になら携われますが、関連業務だけに従事させることはできません。ただし4業務すべてに常時あたる必要まではなく、職場の状況に応じて、許可された在留期間の一部で特定の業務だけに配置することは差し支えないとされています。あわせて押さえておきたいのが雇用形態です。宿泊分野では直接雇用のみが認められ、派遣による受入れはできません。一方で、建設や介護のような事業所ごとの受入れ人数枠は設定されておらず、人数面の制限はありません。
ここでつまずきやすい
「派遣で受け入れる」「フロントには付けず館内販売だけ担当してもらう」は、いずれも宿泊分野では認められません。直接雇用であること、4業務を軸に従事させることが前提です。配置を考える段階で確認しておきましょう。
受け入れの要件──試験・日本語・施設側の条件
受け入れには、外国人本人の要件と、施設側の要件の二つがそろう必要があります。
本人側は、技能と日本語の二本立てです。技能は「宿泊分野特定技能1号評価試験」(旧称:宿泊業技能測定試験)への合格が必要で、試験は一般社団法人 宿泊業技能試験センター(CAIPT)が実施しています。日本語は、日本語能力試験(JLPT)N4以上、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)の合格、または「日本語教育の参照枠」A2相当以上のいずれか。なお、技能実習2号を良好に修了した人は、技能・日本語の試験が免除されます(宿泊は2020年2月25日に技能実習2号の移行対象に追加されました)。
| 試験区分 | 受験者 | 合格者 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月実施分 | 897人 | 542人 | 60.4% |
| 制度開始からの累計(令和7年12月末) | 29,001人 | 19,129人 | ― |
(CAIPT「2025年12月実施分 合格率発表」/出入国在留管理庁「特定技能制度運用状況」より)
直近(2025年12月実施分)の合格率は60.4%でした。ただし国別のばらつきは大きく、インドネシア72.3%、ミャンマー93.8%に対し、日本国内での受験は55.0%と差があります。
数字の読み方
合格率の「60.4%(2025年12月実施分)」は単月の実施分、「累計(受験29,001人・合格19,129人)」は制度開始からの累計で、集計範囲が異なります。両者を同じ「合格率」として並べて比べることはできません。また、宿泊分野2号評価試験の総計の受験者数・合格率は、開催国別の公表にとどまり、確定した総計値は確認できません。
施設側(受入れ機関)の要件は、おおむね次の三つです。第一に、旅館業法に定める「旅館・ホテル営業」の許可を受けていること——簡易宿所営業・下宿営業は対象外です。第二に、風営法に定める一定の施設に該当しないこと。第三に、特定技能外国人に風営法上の「接待」を行わせないこと。この三点は宿泊分野に固有の入口条件で、自館がどの営業許可で運営しているかによって、そもそも受け入れられるかどうかが分かれます。
受け入れたあとの義務と支援体制
受け入れが決まると、宿(受入れ機関)にはいくつもの義務が生じます。代表的なのは、日本人と同等以上の報酬を定めた雇用契約を結ぶこと、1号特定技能外国人支援計画を作成・実施すること、出入国在留管理庁への各種届出を行うこと、そしてハローワークへの外国人雇用状況の届出です。雇用状況の届出を怠ると、30万円以下の罰金の対象になります。
支援計画の実施は、要件を満たせば自社で行えますが、満たせない場合は登録支援機関へ委託します。委託先は登録支援機関に限られ、受託した支援業務をさらに第三者へ再委託することはできません。登録支援機関の数は、全分野を合わせて10,305件(令和7年6月末時点、前年同期比で約15%増)と増えています。
この支援の中身——事前ガイダンスから定期面談まで、いわゆる「義務的支援10項目」の具体的な設計は、受け入れ初期の実務に深く関わるため、別記事「外国人スタッフのオンボーディング設計」で詳しく扱います。本記事では「支援計画の作成・実施が義務であり、義務的支援は10項目に整理される」という建付けの確認にとどめます。なお、宿泊単独での受入れ機関数・登録支援機関数は、公的統計では確認できません(公表されるのは全分野を合わせた数値です)。
宿泊分野特定技能協議会への加入
宿泊分野でとくに見落とされやすいのが、協議会への加入です。受入れ機関は、国土交通省が設置する「宿泊分野特定技能協議会」の構成員になる必要があります。重要なのはそのタイミングです。令和6年6月15日以降は、在留諸申請の際に協議会の構成員であることを示す書類の提出が求められます。つまり、初めて受け入れる場合であっても、申請の前に加入を済ませておくのが事実上の必須になっています。
加入の負担そのものは重くありません。入会費・会費は不要です(2025年11月時点)。登録支援機関にも加入義務があり、協議会の事務局は観光庁が務めています。
「後から入ればよい」ではない
協議会は、受け入れてから・許可が下りてから入ればよいものではありません。在留申請の段階で構成員であることを示す書類が要るため、加入は申請より前に完了させておく必要があります。スケジュールを組むときは、ここを最初の工程に置いてください。
数字でみる宿泊分野──在留者数と受入れ枠
宿泊分野の特定技能は、絶対数こそ小さいものの、伸びは急です。在留者数の推移を見ると、その勢いがわかります。
| 時点 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
|---|---|---|
| 令和5年(2023年)12月末 | 401人 | ― |
| 令和6年(2024年)12月末 | 671人 | 4人 |
| 令和7年(2025年)6月末 | 1,265人 | 17人 |
| 令和7年(2025年)12月末(速報) | 1,968人 | 30人 |
(出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数」より。令和7年12月末は速報値)
直近の1号は1,968人で、前期(令和7年6月末)からは55.6%増。それでも16分野では最少クラスで、全体に占める割合は0.5%にとどまります。絶対数は小さいまま、伸び率だけが際立つ——これが宿泊分野のいまの位置です。参考までに、特定技能全体(1号+2号)は令和7年12月末で390,296人と過去最高を更新しており、そのなかで宿泊分野がいかに小さいかがわかります。
受入れの「枠」(受入見込数)も、経済情勢に合わせて何度も書き換えられてきました。
| 決定時点 | 宿泊分野の受入見込数 |
|---|---|
| 制度開始時(2019年〜) | 22,000人 |
| 令和4年(2022年)8月30日 | 11,200人 |
| 令和6年(2024年)3月29日 | 23,000人 |
| 令和8年(2026年)1月23日(最新) | 20,000人 |
(出入国在留管理庁の各閣議決定より。令和8年1月は別紙9「宿泊」)
最新の令和8年1月23日の閣議決定(分野別運用方針 別紙9)では、宿泊分野全体の受入見込数を20,000人に再設定しています。内訳は、特定技能1号が14,800人、育成就労が5,200人(いずれも令和6〜10年度の5年間)。令和10年度に見込まれる宿泊業の人手不足は約8万1,000人。このうち生産性向上で約3万4,000人、国内人材の確保で約2万7,000人を補ってもなお足りない2万人程度を、特定技能・育成就労で受け入れる見込数とした、という建付けです。
なお、分野によっては枠が逼迫し、外食業では令和8年4月13日に在留資格認定証明書の交付が一時停止されました(制度開始以来初の長期停止)。ただし、宿泊分野ではこうした停止措置はありません。
「枠」と「実数」を混同しない
受入見込数(20,000人など)は、おおむね受入れの上限として運用される「枠」で、実際の在留者数(1,968人)とは別物です。また令和6年3月決定(宿泊23,000人=特定技能のみ)と令和8年1月決定(宿泊全体20,000人=1号14,800人+育成就労5,200人)では枠組み自体が変わっており、有効なのは最新の令和8年1月決定です。速報値と確定値の差にも留意してください。
定着につながる制度の手がかり──2号移行・転職・育成就労
最後に、長く働いてもらうための制度上の手がかりを押さえておきます。宿泊は令和5年(2023年)8月31日から特定技能2号の対象です。2号に移行できれば、在留期間の更新に上限がなくなり、家族の帯同も可能になって、永住要件を満たす道も開けます。2号移行には、宿泊分野特定技能2号評価試験への合格と、複数の従業員を指導するような熟練の実務経験が必要です。1号のあいだも、同じ宿泊分野内であれば転職は可能です。
将来に向けては、育成就労との接続が大きな論点になります。育成就労(2027年4月施行予定)の対象は、特定技能の分野から航空・自動車運送業を除く17分野で、宿泊も含まれます。技能実習では原則できなかった本人の意向による転籍も、一定の条件下で認められる見込みです。育成就労(原則3年)→特定技能1号(5年)→特定技能2号(無期限)というキャリアパスが想定されており、宿泊もこの流れに乗ることになります。ただし移行手続の細部は別記事「技能実習から育成就労への移行」で扱う領域で、本記事では地図上の位置づけにとどめます。
足元の運用も動いています。令和7年(2025年)の運用要領改正では、妊娠・出産・育児や病気・労災による休業期間を通算5年に算入しない柔軟化、一定の条件を満たした場合の通算最大6年への延長特例、1回の申請で最長3年まで在留期間を指定できる扱い、そしてオンライン申請・電子届出の利用者登録(2026年4月以降は事実上必須)などが盛り込まれました。
制度の評価には両論があります。推進の立場からは、深刻な人手不足への即戦力確保の手段として、また2号拡大や育成就労との接続による長期定着の受け皿として期待されます。一方で慎重な立場からは、大都市圏への集中・偏在の懸念や、受入環境整備の負担が指摘されています。政府も令和6年3月の基本方針改定で「地域における外国人との共生社会の実現に寄与することが受入企業の責務」と明記し、協議会の活動にも大都市圏集中の回避や引抜き自粛の要請が含まれています。
まとめ
宿泊分野の特定技能の建付けは、次の4点に畳めます。第一に、人数は16分野で最少クラス・全1号の0.5%ながら、671人から1,968人へと急増している分野であること。第二に、従事できるのはフロント・企画広報・接客・レストランサービスの4業務で、直接雇用のみ・派遣は不可ということ。第三に、宿泊分野特定技能協議会への加入は、在留申請の「前」に済ませておくのが事実上の必須だということ。第四に、受入れ枠は最新で全体20,000人(1号14,800人+育成就労5,200人)で、制度はいま更新の途上にあるということ。
数字は速報値と確定値、見込数と実数が入り混じり、宿泊「分野」と宿泊業全般の範囲も異なります。受け入れを具体的に検討する際は、本記事の建付けを土台にしつつ、必ず各出典の最新情報をご確認ください。
参考:本記事の数値は、本文および記事末の出典に基づきます。制度・統計は改定されるため、必ず各出典の最新情報をご確認ください。とくに在留者数・合格率は速報値を含むこと、受入見込数は「実数」ではなく運用上の枠であること、宿泊単独の受入機関数・登録支援機関数や宿泊分野2号評価試験の総計合格率は公的統計で確認できないこと、育成就労は施行前で省令・運用が整備途上であることに留意してください。
出典
本記事の情報は以下に基づきます。制度・統計は改定されるため、必ず各出典の最新情報をご確認ください。
観光庁「宿泊分野における外国人材受入れ(在留資格特定技能)」
時点:2025年2月17日最終更新- 時点:2025年11月時点
- 時点:2026年1月26日
出入国在留管理庁「特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について(令和6年3月29日閣議決定)」
時点:令和6年3月29日出入国在留管理庁「特定技能2号の対象分野の追加について(令和5年6月9日閣議決定)」
時点:令和5年8月31日施行出入国在留管理庁「分野別運用方針 別紙9 宿泊(令和8年1月23日閣議決定)」
時点:令和8年1月23日出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数(令和7年12月末・速報値)」
時点:令和7年12月末(速報値)- 時点:令和7年12月末
出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」(施行日2027年4月1日)
時点:随時更新(施行前)宿泊業技能試験センター(CAIPT)「【2025年12月実施分】宿泊分野特定技能評価試験 合格率発表」
時点:2026年1月21日公表宿泊業技能試験センター(CAIPT)「特定技能人材を採用する企業様へ」
時点:2025年
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