宿しごと研究所YADOSHIGOTO LAB
記事一覧へ
定着・労務

外国人雇用の助成金と補助金。2026年10月に変わった就労環境整備助成コースと、宿が使える制度

外国人スタッフの受け入れに手間とお金がかかるのは、どの宿も同じです。就業規則を訳す、相談の窓口を決める、寮の家電をそろえる。こうした取り組みの一部を、国や自治体の助成金と補助金で賄える場合があります。ただ、外国人雇用の代表的な助成金は2026年10月1日に要件と金額が変わったばかりで、ネットには古い情報が多く残っています。この記事では、2026年10月16日時点の一次情報をもとに、宿が使える制度と、その使い方の注意点を整理します。

旅館の事務室の机に、申請書類の束と色分けしたファイル、判子と朱肉、湯のみが置かれ、壁に印を付けたカレンダーが掛かっている様子のイラスト

外国人スタッフを雇うと、日本人だけの職場にはなかった仕事が増えます。就業規則を本人が読める言葉にする。困ったときに相談できる人を決める。年に一度、まとまった休みで国に帰れるようにする。どれも定着に効く取り組みですが、手間もお金もかかります。その一部を、国の助成金で賄える制度があります。

この記事のポイント

  • 外国人雇用の代表的な助成金「外国人労働者就労環境整備助成コース」は、2026年10月1日に支給要領が改正されました。いまは定額20万円、一時帰国のための休暇制度を加えると25万円です。
  • 改正後は「雇用労務責任者の選任」と「就業規則や社内マニュアルの多言語化」の2つが必須です。3か月ごとの面談と、責任者の講習受講も要件に加わりました。
  • 計画は、計画期間の初日の6か月前から1か月前までに労働局へ出します。計画を出してから支給の申請まで、厚生労働省の例では1年半以上かかります。
  • ネットに残る「1制度20万円、最大80万円」は、2026年9月30日までに計画を出した場合の旧制度です。
  • キャリアアップ助成金(正社員化)は特定技能のスタッフも対象になり得ますが、技能実習生は対象外です。日常会話の日本語講座や接遇研修は、人材開発支援助成金の対象外と明記されています。

外国人雇用の助成金は、2026年10月に中身が変わった

外国人スタッフの定着に使える国の助成金は、人材確保等支援助成金の「外国人労働者就労環境整備助成コース」です。外国人特有の事情に配慮した職場の環境を整え、定着に取り組む事業主を助成する制度で、雇用保険に入っている外国人を雇っている事業主が対象です。特定技能か、技能実習か、留学生のアルバイトかといった在留資格は問いません。厚生労働省のQ&Aは、技能実習生も、雇用保険に入っていればアルバイトも対象に含まれるとしています。

このコースの支給要領が、2026年10月1日に改正されました。厚生労働省のページが挙げる主な改正点は次のとおりです。

  • 支給額を最大25万円に変更
  • 「苦情・相談体制の整備」を廃止し、雇用労務責任者による苦情・相談対応を要件にする
  • 雇用労務責任者と外国人労働者の面談を、3か月ごとに1回以上行うことを要件にする
  • 外国人労働者雇用労務責任者講習の受講を要件にする
  • 「就業規則等の多言語化」と「社内マニュアル・標識類等の多言語化」を統合する

検索で上位に出てくる解説には、いまも「導入した制度1つにつき20万円、上限80万円」と書かれたものがあります。これは2026年4月1日から9月30日までに計画を出した場合の旧制度の金額です。支給要領の経過措置は、2026年10月1日より前に提出された計画には、従前の例によるとしています。9月までに計画を出した宿は旧制度、10月以降に出す宿は新制度で、どちらが当てはまるかは計画を出した日で決まります。

9月30日までに計画を出した宿は、旧制度の要件で進めます。2026年4月1日現在のガイドブックによれば、旧制度の措置は「雇用労務責任者の選任」「就業規則等の多言語化」「苦情・相談体制の整備」「一時帰国のための休暇制度の整備」「社内マニュアル・標識類等の多言語化」の5つで、金額は1制度導入につき20万円、上限80万円でした。離職率を見る期間の起点も、旧制度は措置の実施日の翌日からで、新制度の計画期間の末日の翌日からとは違います。どちらの要件で審査されるのか迷ったら、計画を出した労働局に確かめるのが確実です。

新しい要件:2つの必須と、1つの上乗せ

改正後は、決められた措置をすべて行うと定額が支給される仕組みです。経費の何割かを補う形ではありません。

措置区分中身
雇用労務責任者の選任必須事業所ごとに選び、名前と相談に応じることを周知する。3か月ごとに1回以上、すべての外国人スタッフと面談して記録に残す。講習を受ける
就業規則、社内マニュアル等の多言語化必須就業規則(または労働協約)、労働条件通知書(または雇用契約書)、社内マニュアルを、それぞれ1点以上、母国語などか平易な日本語にする
一時帰国のための休暇制度上乗せ年次有給休暇とは別の有給休暇を就業規則に新設し、年1回以上、連続5日以上取れるようにする

(厚生労働省「外国人労働者就労環境整備助成コース ガイドブック」令和8年10月1日現在より作成)

実施した措置支給額
必須の2つ20万円
必須の2つと一時帰国の休暇制度25万円

雇用労務責任者は専任でなくてよく、人事の担当者などが兼ねられます。国籍や経験年数の決まりもありません。適任者がいない事業所では、事業主か役員がなることもできます。宿の規模でいえば、支配人や総務の担当者がこの役を担うのが現実的です。

責任者の仕事は、面談だけではありません。外国人スタッフが最低賃金や安全衛生などの法令に反する扱いを受けたときに相談できる行政機関を、本人たちに知らせておくことも要件です。ガイドブックは、労働基準監督署のほか、都道府県労働局の外国人労働者相談コーナー、ハローワーク、外国人労働者向け相談ダイヤルなどを挙げています。宿の中で言いにくいことを外に相談できる道を、宿の側が示しておくという考え方です。

面談はテレビ電話でもかまいません。厚生労働省のQ&Aによれば、外部の通訳者を同席させることもでき、通訳者の資格やレベルは問われません。計画期間を3か月にした場合でも、計画期間中に1回、離職率を見る期間中に2回、合わせて最低3回の面談が必要です。

多言語化の対象になる社内マニュアルは幅が広く、労使協定、寄宿舎の規則、安全衛生やハラスメントのマニュアル、館内の標識類まで含まれます。寮を持つ宿なら、寮の決まりを訳すことがそのまま要件の一部になります。外国人スタッフが2人以上いる場合は、そのうち1人の言葉で多言語化すれば支給の対象になります。計画を出す前に、すでに全員分の就業規則や労働条件通知書を多言語化してあった場合は、その書類はあらためて訳す必要はありません。

一時帰国の休暇は、制度を作ったあと、外国人スタッフが実際に連続5日以上取って初めて上乗せの対象になります。取った人がいなくても、必須の2つが終わっていれば20万円は支給されます。休暇制度は、支給を申請する日の時点でも続けて運用していることが要件です。また、離職率を見る期間の末日まで続けて雇っている外国人スタッフが1人以上いることも必要です。

計画を出してから支給まで、1年半以上かかる

この助成金でいちばん間違えやすいのは、順番です。措置を始める前に「就労環境整備計画」を労働局に出し、認定を受けなければなりません。

  1. 計画を出す:計画期間(3か月以上1年以内)の初日の6か月前から1か月前までに、本社の所在地を管轄する労働局へ出します。
  2. 措置を実施する:認定された計画どおりに、責任者の選任や多言語化を進めます。計画と違うことをするなら、変更の届けが必要です。
  3. 離職率を見る:計画期間が終わった翌日から6か月間の、外国人スタッフの離職率を見ます。離職率は15%以下であることが要件です。期間の初日に外国人スタッフが2人から6人なら、辞めた人が1人以下であれば満たします。
  4. 支給を申請する:離職率を見る6か月が終わった翌日から2か月以内に申請します。

厚生労働省のガイドブックの例では、2026年10月1日に計画を出し、計画期間を2026年12月1日から2027年11月30日にすると、支給の申請期間は2028年6月1日から7月31日です。支給の申請ができるのは、計画を出してからおよそ1年8か月後ということになります。

離職率の計算から除かれる離職もあります。定年や、有期契約の期間満了、特定技能1号の在留期間の上限を迎えての帰国などです。反対に、年金の脱退一時金を受け取るために辞めて帰国した場合は、辞めた人に数えると厚生労働省のQ&Aは示しています。一方、計画期間の初日の前日から6か月前の日から計画期間の末日までに、日本人を含む雇用保険の加入者を事業主の都合で解雇していると、支給されません。前にこのコースを受給した宿は、最後の支給決定から3年たつまで次の計画を出せません。

例として、外国人スタッフが5人いる旅館が、2026年12月1日に計画を出し、計画期間を2027年2月から7月までの6か月にした場合を考えます。日程は次のようになります。

段取り時期(例)
計画を出す2026年12月1日(計画期間の初日の6か月前から1か月前の間)
計画期間(責任者の選任、多言語化、休暇制度)2027年2月1日〜7月31日
離職率を見る期間2027年8月1日〜2028年1月31日
支給の申請2028年2月1日〜3月31日

(ガイドブックの期限の決まりから編集部で作成)

この例では、面談は2027年2月から2028年1月まで3か月ごとに続け、少なくとも4回になります。5人のうち離職率を見る期間に辞めた人が1人なら要件を満たし、2人辞めると満たしません。冬の繁忙期を挟む宿なら、繁忙期に面談の時間を確保できるかも、計画期間を決めるときの判断材料になります。

ほかの国の助成金:使えるものと、使えないもの

外国人だけを対象にした制度ではなくても、外国人スタッフに使える助成金があります。逆に、使えそうに見えて対象外と明記されているものもあります。

**キャリアアップ助成金(正社員化コース)**は、有期契約のスタッフを正社員にしたときの助成です。2026年度の額は、中小企業で重点支援の対象者を有期から正社員にした場合に1人80万円(40万円ずつ2期)、それ以外は40万円です。転換の前日までに計画を出すこと、転換後の賃金を3%以上上げることなどが要件です。正社員への転換制度を新たに就業規則に定めて転換した場合は、1事業所あたり1回だけ20万円が加算されます。勤務地や職務を限った「多様な正社員」の制度を新たに定めた場合は40万円です(いずれも中小企業の額)。外国人については、厚生労働省のQ&Aが整理していて、技能実習生は正社員化コースの対象外です。一方、特定技能1号と2号、技術・人文知識・国際業務などは対象になり得るとしています。

人材開発支援助成金は、職務に必要な訓練の費用などを助成する制度です。ただ、令和8年8月3日版のパンフレットは、対象にならない研修として「接遇・マナー講習等社会人としての基礎的なスキルを習得するための講習」と「日常会話程度の語学の習得のみを目的とする講習」を挙げています。外国人スタッフ向けの日本語の日常会話講座や、一般的な接客マナーの研修は、この助成金では賄えないと考えておくのが安全です。

**人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)**は、外国人に限らず、人事評価制度や賃金規定などを整えて離職率を下げた事業主への助成です。賃金規定、諸手当、人事評価の制度は1つ40万円(賃金要件を満たすと50万円)、上限は80万円(同100万円)です。要件は、計画期間の終了から1年後までの離職率を、計画を出す前の1年間より1ポイント以上下げることです。外国人スタッフの評価や昇給の仕組みを作るなら、こちらも候補になります。

観光庁の「観光地・観光産業における省力化投資補助事業」は、宿泊事業者が自動チェックイン機や配膳ロボットなどを入れる費用の半分(上限1,000万円)を補助する制度です。対象は旅館業法の許可を受けた宿泊事業者で、住宅宿泊事業法による民泊などは含まれません。人手不足対策ではありますが、補助の対象は設備の導入で、外国人スタッフの受け入れ環境を整える費用は含まれていません。2026年度の一次公募は5月29日に締め切られ、二次公募は一次の申請状況を見て検討するとされています。

自治体の補助:寮の家電や日本語講座に使えることも

国の助成金とは別に、都道府県や市町村が外国人を雇う事業者向けの補助を出している例があります。調べた範囲では、宿泊業に限った制度は見つかりませんでした。ただ、業種を問わない制度なら宿も申請できる可能性があります。

自治体(2026年度)補助の上限と率対象の例受付
大分県50万円(1/2以内)、賃上げコースは100万円(2/3以内)寮の家電や自転車、多言語の表示やマニュアル、日本語教材、日本語試験の受験料10月30日まで
宮崎県25万円(1/2以内)日本語講座などの研修費、在留資格の申請業務の委託費10月30日まで
徳島県宿舎の整備、改修30万円、日本語の学習15万円(1/2以内)宿舎の冷暖房やトイレの整備、日本語の講習や教材2027年2月8日まで
佐世保市新たに雇う外国人1人あたり20万円、最大3人(1/2以内)掲示物やマニュアルの多言語化、住居の家電や自転車2027年1月8日まで

(各自治体のページより作成。2026年10月16日閲覧。いずれも予算に達し次第、期限前に締め切る場合がある)

共通しているのは、交付が決まる前に発注や契約をした費用は対象にならないことです。寮のエアコンを先に買ってから申請しても、補助は受けられません。対象になる事業者の条件も制度ごとに違います。たとえば大分県は、県内で働く外国人(技能実習生、特定技能外国人、インターンシップ生)を1人以上受け入れているか、実績報告までに雇う具体的な計画があること、労働保険と社会保険に加入させていることを求めています。ほかの国や自治体の補助を受けた費用も、多くの制度で対象外です。大分県と宮崎県の受付は2026年10月30日までで、予算に達し次第、期限の前でも締め切られます。両県に宿がある場合は、早めに県の窓口に問い合わせてください。宿のある都道府県や市町村に同じような制度がないか、商工や労働の担当課のページで探してみる価値はあります。

申請の前に、宿が確かめておくこと

助成金は、条件を満たせば受け取れる一方で、手順を一つ外すと1円も出ません。外国人労働者就労環境整備助成コースのガイドブックが挙げる注意点のうち、宿で起きやすいものをまとめます。

  • 雇用保険の適用事業所であること、そして外国人雇用状況の届出をきちんと出していること。届出が漏れていると、要件を満たしません。
  • 計画の認定より前に始めた措置は、原則として対象外です。すでに就業規則を訳し終えている場合の扱いなど、細かい点は労働局に確かめます。
  • 同じ措置で、ほかの助成金を重ねて受けることはできません。どちらか一方を選ぶことになります。
  • 不正受給は、返還に加えて事業主名が公表されます。申請書類の写しは、支給決定から5年間保管します。

外国人労働者就労環境整備助成コースは、10月の改正で金額の上限が下がった代わりに、面談や講習といった「人が関わる仕組み」を求める形になりました。助成金のための作業と考えるより、定着のためにどのみち必要な仕組みを、20万円の後押しで先に作ると考えたほうが筋が通ります。責任者が3か月ごとに全員と話す。就業規則と労働条件通知書を本人が読める言葉にする。この2つは、助成金がなくても宿に残る財産です。

就業規則や労働条件通知書の多言語化は、厚生労働省が出している外国人向けのひな形を使うと手間が減ります。ひな形の入手先と使い方は『外国人の内定通知書と労働条件通知書』にまとめています。定着の打ち手全体は『外国人スタッフの離職と定着』、住まいの支援は『外国人スタッフの社宅と住まいの支援』で扱っています。

出典

本記事の情報は以下に基づきます。制度・統計は改定されるため、必ず各出典の最新情報をご確認ください。

あなたの宿の話を、聞かせてください。

取材を通じて、宿の魅力や工夫を一緒に発信しませんか。

取材協力について